新たなミラーレス・シリーズについて

ニコンが最初のミラーレスカメラ、Nikon V1とJ1を発売したのは2011年10月でした。キヤノンとともに、デジタル一眼レフカメラをリードしてきたニコンが、どのような形でミラーレスカメラ市場に参入するのか、ネット上でもさまざまな予測がされていました。


キヤノンのミラーレス戦略
ソニーのミラーレス戦略
オリンパスのミラーレス戦略


ミラーレスカメラのセンサーサイズ
ミラーレスでは比較的小型のイメージセンサー。

ニコンの出した答えは「1型サイズの比較的コンパクトなイメージセンサーを採用し、エントリー層にフォーカスしたミラーレスカメラ」でした。これは、デジタル一眼レフ市場で圧倒的なシェアを持っているニコンとしては、ある意味、妥当な戦略であったと思います。一言でいえば、既存製品とは競合せずに、新たなニーズに対応することで、映像部門全体の売上を伸ばしていくことを目指した戦略であり、「中上級者はこれまで通りデジタル一眼レフを、コンパクトカメラからのエントリー層はミラーレスカメラへ」というメッセージでした。
なお、デジタル一眼レフカメラのもう一方の巨星であるキヤノンは、イメージセンサーこそデジタル一眼レフでも採用されているAPS-Cサイズを使っているものの、やはりエントリー層をターゲットとしたミラーレスカメラ、EOS Mを2012年9月にリリースしており、基本的な指向はニコンと極めて近かったといえます。

フェードアウトしつつあるNikon 1シリーズ

このニコンの戦略は成功したか。そのことは、Nikon 1シリーズの最新作であるJ5の発売が2015年4月であることが、すべてを物語っているといえるかもしれません。公正性を欠いてはいけないので補足すると、現時点でもNikon 1シリーズは、決して小さくない市場シェアを持っています。コンパクトなボディと比較的低廉な実売価格は、エントリーユーザーにとって魅力的なのだと思います。

しかし、2年以上にわたって新製品が投入されず、現行機種はJ5とAW1の2機種となっている現状は、いずれ市場から退場することを予想させます。

ニコン1シリーズのリリース状況

カメラ本体
レンズ
2017年
2016年
2015年
J5
2014年
S2
J4
V3
VR 70-300mm f/4.5-5.6
VR 10-30mm f/3.5-5.6 PD-ZOOM
2013年
AW1
J3
S1
AW 10mm f/2.8
32mm f/1.2
VR 6.7-13mm f/3.5-5.6
VR 10-100mm f/4-5.6
2012年
V2
J2
18.5mm f/1.8
11-27.5mm f/3.5-5.6
2011年
V1
J1
VR 10-30mm f/3.5-5.6
VR 30-110mm f/3.8-5.6
10mm f/2.8
VR 10-100mm f/4.5-5.6 PD-ZOOM

ニコンのミラーレス戦略

こうした状況は、ニコン経営陣のインタビューからもうかがえます。7月7日付の日刊工業新聞には、「構造改革はあらゆる可能性を排除しない」との牛田社長のインタビュー記事が掲載されています。この中で、一眼レフの中上級機を主戦場に定め、売上よりも利益を重視すること、ミラーレスカメラについては性能面で他社に差を付けた『ニコンらしい』製品を出すことに言及しています。

同じく、8月8日付では、映像事業を担当する御給伸好常務執行役員が「ブランド力を生かせる中・高級一眼レフや交換用レンズ、ミラーレスカメラを強化する」「ミラーレスは早期に品揃えを増やす」と発言しており、文字通りに受け取れば、高い性能を持ったミラーレスが集中的にリリースされることになります。

仮説1:Nikon 1シリーズを抜本的に強化する

ミラーレスカメラとして見た場合、ニコン1シリーズで狙った「コンパクト重視」のコンセプトは、決して色あせていません。各社がリリースする高級コンパクトをみても、その多くはNikon1と同じ1型イメージセンサーを搭載しており、画質面では十分な性能を持っていることを示しています。
とくに、J5で採用されたイメージセンサーは、V3までのセンサーと比べても、高感度性能をはじめ一段と描写性能が向上しており、まさに「スマートフォンでは撮れない」写真を得ることができます。

Nikon 1シリーズが伸び悩んだ理由は、エントリーユーザーをメインターゲットにするあまり、ハードやソフトのインターフェースが独特のものとなってしまい、中・上級ユーザーに抵抗感をもたれてしまったことや、とくにV1やV2のようにデザイン面で万人向けではなかったこと、さらには12本の交換レンズが用意されているものの焦点域の重複も多く、ラインアップの不足感が否めなかったことも影響していたと思います。

そうであるならば、これらのポイントを改善すれば、新生1シリーズとして十分な競争力を持ちうることを意味します。

ただし、その場合、いずれはデジタル一眼レフを置き換えていくような、APS-Cサイズやフルサイズのイメージセンサーを搭載した、新しいミラーレスカメラが必要になります。手法としては、ペンタックスのK-01のように、レンズマウントは変えずにミラーレス化をはかる手法もありますが、ミラーレスカメラとしてのメリットを十分発揮するにも、やはりFマウントに代わる新たなレンズマウントが採用されることになるものと思われます。

仮説2:フルサイズを視野に入れた新シリーズをリリースする

もう一つの可能性は、デジタル一眼レフと同じAPS-Cやフルサイズのイメージセンサーを搭載した新シリーズをリリースすることです。

新型ミラーレスカメラは、フルサイズのイメージセンサーに対応できる開口部を持ちつつ、ミラーレスカメラのコンパクト性を活かした新たなレンズマウントを搭載し、機能的にはデジタル一眼レフのD3400やD5600のクラスをカバーするものになると思われます。

この場合、既存のデジタル一眼レフとの棲み分けをどのように設定していくのかがポイントとなりますが、まずはエントリークラスでシステムを徐々に充実させ、最終的にはハイエンドもカバーすることになっていくのだと思います。このあたりは、キヤノンのミラーレスカメラ、EOS Mシリーズがたどっている道筋とオーバーラップしているかもしれません。

ミラーレス戦略が10年後のニコンを決める

いずれにしても、最終的にデジタル一眼レフからミラーレスカメラへの移行が進んでいくことについては、すでに議論の余地はないと思います。ミラーレスカメラを支える要素技術の急速な発展により、デジタル一眼レフでしか撮れない撮影シーンは大幅に減っています。コスト面でも、メカ部分が少なく光学系も比較的シンプルなミラーレスカメラの側にアドバンテージがあり、デジタル一眼レフは現在のフィルムカメラのようなポジショニングになるものと思います。


問題は、それがいつの時点になるかであり、さらにはどのような形でスムーズに移行するのか、ということです。まずは、既存のNikon 1シリーズにテコ入れをし、並行してフルサイズに対応したミラーレスカメラの準備を進めていくのか、あるいは一気に新たなレンズマウントを投入するのか。おそらく、この検討はニコン内部でもあらゆる観点から行われているものと思います。

私自身は、どちらの選択も十分あり得ると考えています。しかし、予想していた以上にミラーレスへの移行が早く進んでおり、ニコンのブランドが力を持っている間に新マウントを定着させるためにも、最終的な目標へ向けた早急な対応をすべきであると思います。






Nikon 1 V1 & J1